北八ヶ岳を歩く

南北でふたつの表情をもつ八ヶ岳

八ヶ岳は、本州中央を縦断するフォッサマグナ(大地溝帯)に沿って噴出した火山群で、標高2899mの赤岳を主峰に、南端を編笠山、北端を蓼科山として、20以上のピークが主稜線と支稜に連なっています。

そのスケールは、主稜線が延びる南北に約30km、裾野の広がる東西に約15Km、アルプスの呼称こそ与えられていませんが、本州中部山岳を代表する山域のひとつです。南東部は山梨県、南西部と赤岳以北は長野県に属しています。

その成因から八ヶ岳は、ほぼ中間の夏沢峠を境に以南を南八ヶ岳、以北を北八ヶ岳と呼ばれ、それぞれ「南八ツ」「北八ツ」の愛称で親しまれています。

八ヶ岳と七ツ池(7月) Photo by Kenji Shimadate

八ヶ岳と七ツ池(7月) Photo by Kenji Shimadate

南八ヶ岳は主峰・赤岳を中心に権現岳や横岳、阿弥陀岳など、アルペンムードを放つ峻険な峰々がそびえ立ち、その景観は日本アルプスの3000m級山岳に匹敵しています。対照的に北八ヶ岳は、おだやかな山並みが広がり、針葉樹の原生林に囲まれた山上湖や明るく伸びやかな草原が点在しています。

八ヶ岳は日本アルプスに比べると、規模はひとまわり小さいものの、そのぶん1泊2日程度の短期間でも、複数のピークを結ぶ縦走登山など幅広いコースを計画できます。さらに主要登山口へのアクセスが便利で、山小屋も充実しています。とりわけ八ヶ岳には、通年営業の山小屋が多く、四季を通じて多くの登山者が訪れています。

このように南北でふたつの表情をもち、森と山上湖をめぐるトレッキングからアルペン的な峰々を結ぶ稜線縦走まで、コンパクトなエリアに魅力が凝縮しているのが八ヶ岳の大きな特徴です。

静かな森に包まれた北八ヶ岳を楽しむ

八ヶ岳の主稜線のほぼ中間、夏沢峠から北側、蓼科山までのエリアが「北八ツ」の愛称で親しまれる北八ヶ岳です。峻険な峰々がそびえ立つ南八ヶ岳とは対照的に、シラビソやコメツガなど針葉樹の原生林に包まれ、静かな山上湖や明るい草原が点在する、おだやかな山並みが広がっています。

アルペン的な峰々を結ぶ稜線縦走が醍醐味の南八ヶ岳に対して、北八ヶ岳を楽しむ代表的なスタイルは、森と山上湖をめぐるトレッキング。ピークに立つことにはこだわらず、自然と時間の流れをゆったりと楽しむ、そんなエリアが北八ヶ岳です。

始まった七ツ池の紅葉(9月) Photo by Kenji Shimadate

始まった七ツ池の紅葉(9月) Photo by Kenji Shimadate

大展望と山上湖が魅力の北横岳

標高2480mの北横岳は、針葉樹の原生林に包まれた、おだやかな山並みが広がる北八ヶ岳を代表するピークのひとつ。南東に縞枯山、北西には蓼科山が向き合い、東には火山活動の溶岩流によって形成された三ツ岳と大岳を連ねています。

地図を見ると、北横岳は「横岳」と記されていることがあります。北横岳の正式名は「横岳」ですが、南八ヶ岳にも同名の山があることから、それと区別するため、登山では「北横岳」の呼称が定着しています。

北横岳は、山麓から望むと名のとおり横幅の広い、どっしりとした山です。もちろん、昔は山麓から歩いて登っていましたが、いまは北八ヶ岳ロープウェイの山頂駅から短時間で登れる八ヶ岳入門のピークとして親しまれています。

雲海の夕暮れ(11月) Photo by Kenji Shimadate

雲海の夕暮れ(11月) Photo by Kenji Shimadate

頂上は、北横岳ヒュッテから登って最初に立つ南峰と、標高2480mの北峰からなり、どちらも抜群の展望に恵まれています。南峰からはとくに南八ヶ岳と南・中央アルプス、奥秩父。北峰からは、間近に横たわる蓼科山をはじめ、御嶽山、北アルプス、頸城山塊、浅間山をよく眺めることができます。

北横岳周辺には、ヒュッテのすぐ北側の森にたたずむ七ツ池をはじめ、亀甲池、双子池、雨池などの山上湖が点在し、静かで美しい風景を描いています。大展望の北横岳頂上とともに、これらの山上湖をめぐる「北八ツの池めぐり」は、北八ヶ岳の人気コースのひとつです。

北八ヶ岳の登山シーズン

登山シーズンは、春夏秋冬とは別に、よく無雪期と積雪期とに区分してとらえます。北八ヶ岳の無雪期は、おおむね6月上旬から10月下旬。年によって大きく変動することもありますが、この間が雪に対する装備や技術を必要とせずに歩ける時期です。

序盤の6月は新緑の季節。広葉樹のダケカンバが若葉を萌やし、林床ではオサバグサが小さな白い花を咲かせます。7〜8月は躍動感あふれる夏山シーズン、心地よい涼風をもとめて大勢の登山者が訪れます。秋の彩りは例年9月下旬から10月中旬。ほとりのナナカマドやダケカンバが色づく山上湖が紅葉の見どころです。

北八ヶ岳の初雪は早い年で10月中旬ごろ、遅くても10月下旬。11月に入ると、降雪を見る日が多くなり、本格的な積雪期を迎えます。といっても北八ヶ岳は、雪山入門エリアとして親しまれ、冬も活気があります。

北横岳ヒュッテ(1月) Photo by Kenji Shimadate

北横岳ヒュッテ(1月) Photo by Kenji Shimadate

雪山デビューは、的確な雪山知識と技術、そして装備を身につけることが必要です。最初は雪山経験者同行が望ましいといえます。したがってハードルは低くありませんが、北八ヶ岳では、雪山技術を実地に学べる登山教室をはじめ、雪山を体験できるスノーシューツアーなどが盛んに行われ、雪山入門の機会が豊富です。

Text by Toru Sasaki Photo by Kenji Shimadate

双子池〜雨池間の新道について

2012年8月28日に双子池と雨池を結ぶ新しい登山道が佐久穂町と近隣の営業施設の協力で開通しました。
コースガイドと周辺の地形図を8月30日の「山小屋便り」に記載しましたので、ご覧ください。

なお大石川林道の双子池入口〜雨池峠下の区間は、落石の危険があるため通行禁止となっています。